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カシオが目指す「完全自動腕時計」の凄い機能

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地球上どこにいても、「完全自動」で正しい情報を提供する腕時計――。カシオ計算機の製品は2017年、その究極の技術にまた一歩近づきました。

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カシオが2017年5月に発売したG-SHOCK「GPW-2000」は、GPSと標準電波に加え、スマートフォンのアプリにも連携させることで、時刻を自動取得できる世界初の技術「Connected エンジン3-way」を搭載。

腕時計に内蔵された3つの時刻取得システムが自動接続し、時期や国・地域により頻繁に変動するサマータイムや時差などにも対応。どこにいても正確な時間を刻む製品に仕上がっています。

「Connected エンジン 3-way」を搭載した今年5月発売のG-SHOCK「GPW-2000」の写真(カシオ提供)
G-SHOCKに代表されるような、落ちても壊れない“タフ”な腕時計。多くの人はカシオの製品をこうイメージします。

しかし、同社企画統括室のチーフエンジニア、小島直さんは言います。「完全自動の実現は、カシオのエンジニアにとって永遠のテーマなんです」。

カシオ企画統括室、チーフエンジニアの小島直さん

1974年のニュースリリース…カシオの原点

カシオが1974年10月に発売した腕時計「カシオトロン」は、30日までの月と、31日までの月、そして閏年の2月を自動的に判別して日付を表示する世界初の「オートカレンダー機能」をもった製品でした。

74年発売の「カシオトロン」(カシオ提供)

機械式計算機メーカーとして46年に創業し、74年にデジタル腕時計の分野に後発参入することになったカシオ。

先行メーカーとの製品の違いを明確に打ち出すため、この時、はじめて発売した腕時計に搭載したのが「オートカレンダー機能」という「完全自動」技術でした。

「腕時計とは何か? 腕時計の使命を原点に立ち返って考えてみました。そして、その結論として“全時間帯機能(完全自動カレンダー)”に到達したものであります」

当時のプレスリリースには、こうした文章を見ることができます。それから40年以上たった現在でも、カシオが一貫して目指し続けてきたのはこの「完全自動」の実現でした。

水深80mでも、ヒマラヤ山脈でも――

「水難救助隊が使えるダイビングウォッチ」。

こうした触れ込みで2016年6月に発売された「FROGMAN」は、水難救助隊の「業務で使えるダイバーズウォッチがない。今の(カシオの)モデルは全然使えない」という「クレーム」が開発の原点でした。

16年発売の「FROGMAN」(カシオ提供)
カシオ製品の大きな特徴としてあげられるのは、ダイバーやパイロットなど、その道のプロが業務で使用するケースが多いこと。実際に救助隊の現場や海に赴き、生の意見を製品に取り入れていこうとする文化が社内にあります。

FROGMANの開発チームには、レジャーダイビングの資格をもつエンジニアもいました。

これでは十分に潜水のプロの声を理解できないと考えた開発チームは、主要メンバー全員がダイビングに加え、国家資格の「潜水士」免許を取得。潜水の知識が大きく増えたことで、救助隊の意見をすんなりと理解できるようになったといいます。

また、実際の潜水は危険がつきもの。特に海中では自分の位置の把握が難しく、救助隊から「水深計がないと使えない。方位計もあると助かる」といった要望も寄せられていました。

製品では、潜水前にボタンを押してダイビングモードに設定すると、水深1.5メートルで水圧を検知し、水深計が10センチ刻みという高い精度で自動計測を開始。これは救助隊の業務想定を大きく超える水深80メートルまで対応しています。

また、腕時計に内蔵されているセンサーが位置を自動補正し、正確な方位をリアルタイムで表示します。このように正確な情報を自動で示してくれるプロユースの時計として、「FROGMAN」は一般ユーザーから大きな人気を博しています。

FROGMANが水中での自動化を目指した時計なら、「PRO TREK」は山での自動化を目指して作られた腕時計。プロ登山家の竹内岳洋さんの協力のもと、ヒマラヤ山脈の登山にも実際に使用されました。

登山家向けに発売している「PRO TREK」(カシオ提供)

標高8000m級の山中でも、時刻はもちろん高度、気温、気圧、方位を正確に示してくれる高機能の腕時計として、登山好きのユーザーから絶大な支持を受けています。

イスラム教徒に大ヒット!どこにいても正確な礼拝ができる時計

カシオの完全自動とは、地球上どこでも正確な時刻を表示することにとどまりません。カシオは「文化」においても完全自動を実現しています。

日本とは大きく文化が異なる中東向けに発売されている腕時計「PRAYER COMPASS」は、独自のローカライズ戦略を取り、大ヒットを収めている商品です。

中東向け腕時計「PRAYER COMPASS」

同社は92年に初めて中東向け腕時計を商品化。この時計は、イスラム教の礼拝時間にアラームが鳴るという独自機能を搭載していました。

しかし、礼拝の時間は、太陽の位置(角度)で決まるため、場所や季節によって時刻が大きく変化します。初期モデルはこの変化に十分対応できておらず、「時刻が間違っている」と抗議を受け、発売間もなくエンジニアが現地に謝罪に行ったそうです。

12年から発売している現行モデルでは、イスラム圏の主要な5つの礼拝時間帯に対応。ボタン一つでその時刻だけでなく、聖地メッカの方向まで教えてくれます。

開発者でモジュール開発部の三宅毅さんは「礼拝時刻の設定に苦労しました。半導体の性能が向上し、礼拝と密接に関わる日の出・日の入の時刻を詳細に計算できるようになりましたが、実際に時刻を決めているのはイスラム教の国際機関。現地ユーザーに礼拝の時刻の詳細を聞いてみたものの何もわからず、結局、日本の図書館で宗教書を読み漁りました」と話しています。

三宅さんは「時計エンジニアとして時刻をピッタリ合わせるのは基本中の基本。どんな手段を使ってでも礼拝時間を示したかった」といいます。

カシオモジュール開発部の三宅毅さん

カシオが目指す、真の「完全自動」腕時計とは

「実はGPSと標準電波の2つだけでも、通常使用するには十分なほど正確な時刻を表示させることが可能」(小島さん)といいます。

今回、あえて、腕時計とスマホを連携させる3つ目の機能を追加したことで、「ユーザーが意識しなくても、どこでも正確な時刻を表示できるようになっています」(同)と自信を見せています。

実際、従来品でもGPSと電波時計の2つのシステムを使うので、大量の部品数や電池の消費はギリギリ。このため、今回の開発の難易度は大きくあがった形になりました。

それでも、地球上どこでもユーザーが意識せず、環境にも関係なく、自動で正しい時刻を示す腕時計を実現するため、「デザイン」「ソフトウェア開発」「センサー」「電池」など様々なジャンルのエンジニアが集結し、開発チームを結成しました。

部品を小型化する。電池消費が増えないよう全ての部材を見直す。頻繁に変わる各国の標準時のルールをより正確に反映したソフトウェアを開発する――。試行錯誤を繰り返して完成したのが世界初の新技術「Connected エンジン3-way」でした。

カシオが今年開発した「Connected エンジン 3-way」の詳細(カシオ提供)

しかし、この最新技術を使った腕時計も、「まだボタンやアプリを操作する手間がある」と小島さんはいいます。

カシオはすでに世界トップレベルで「完全自動」を実現しつつありますが、同社の挑戦は止まりません。小島さんは「本当の完全自動に向けて、どこまで突き詰めていけるかが我々の仕事」と意気込んでいます。

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