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エンジニアとして生き残るために、してはいけない3つのこと

[2017.07.26]
パズルのピース

半導体メーカーにエンジニアとして務める一方、“エンジニアライター”として技術者に向けた情報発信を続けている蔵本貴文さん。
蔵本さんのこれまでのエンジニア人生はけして平坦なものではなく、業界の浮き沈みからリストラの危機に瀕するなど、さまざまな苦難を乗り越えてきました。
そんな蔵本さんが、エンジニアとして長く活躍するための条件を語ります。

生き残るエンジニアには、「してはいけないこと」がある

「就職する業界を間違えたな」ある親戚に言われた一言です。
2000年前後の就職氷河期に誰もが知る大手電気メーカーに就職して、半導体エンジニアとしてのキャリアをスタートしました。当時、自分は勝ち組だと疑いもしませんでしたが、数年後には業績不振から半導体事業は分社化、そしてそれもうまくいかず他社と統合し、社員が半分以下になるような壮絶なリストラを経験します。自身も実際に退職勧告を受けました。そして、気づいてみれば転職したことがないのに、会社の移籍を繰り返し、5回も勤め先の社名が変わっていました。
事実を見てみれば、冒頭の親戚が発した言葉も当たり前だと思うでしょう。でも、実は私自身は就職先に後悔もしていないし、今もチャレンジングで充実した毎日を過ごしています。これはなぜだと思いますか?
次々と大手電気メーカーの経営危機のニュースが飛び交う中、こうすれば充実して幸せなキャリアを描ける、といった万能法則はありません。しかし、「してはいけないこと」ははっきりしているのです。今回、エンジニアが幸せになるために、してはいけないことを書いてみたいと思います。

(1)一つの技術にかけてはいけない

私自身、社員が半分になるような激しいリストラの渦中にいて周囲を観察していました。真っ先にリストラ候補になったのはどんな人だと思いますか?それは「入社以来、○○の技術一筋でやってきました」というタイプの人だったのです。
人員削減が始まると、ある事業から丸ごと撤退、ということが起こります。その時に特定の技術の経験しかない人はことごとく人員削減のターゲットとなっていきました。また、会社の事業が順調であっても一つに技術にかけることは非常に危険です。例えば、ガラケーがスマホに置き換わったように、ある技術が駆逐されて、新しい製品や技術に置き換えられるというのはよくある話です。今はスマホのカメラの性能が向上しすぎて、デジカメの市場が急速に減少していると言われています。
雇われエンジニアだと、配属を完全にコントロールすることはできません。しかし、どんな部署においても、他分野の技術を触れる機会はあるものだと思います。そういうチャンスを生かして、複数技術の専門性を持つように心がけましょう

(2)人の言うことを100%信用してはいけない

迷路会社でリストラの嵐が吹き荒れていた時、主なターゲットとなったのはバブル世代に入社した人達でした。そんな人の中には、当時は日本の半導体業界が活況で、家族や先生に勧められて入社した人も多く、そんな人の中には「本当に失敗したよなぁ」と恨み言を言いながら会社を去っていく人もいました。
問題は重要な意思決定を他人に委ねてしまったということです。周りの人の言うことを100%受け入れていては、何かあったときに、他人のせいにしてしまって、成長に絶対必要な自責の念が生まれません。人の意見は参考にしたとしても、最後は自分で決める、結果に責任を持つことが大事なのです。
また、世間の風に踊らされて衰退していく会社も多いです。日本の半導体業界でも、DRAMが儲かると言えば各社DRAMに群がり、そしてそれがダメになって次はシステムLSIと言い出し、それもみんな失敗してしまいました。結果的に今、日本の半導体で競争力があるのは、揺れる東芝のフラッシュメモリと独自路線を行ったソニーのイメージセンサだけです。現在は各社「車載だ」と叫んでいますが、それも非常に危ない匂いがします。
今は、個人にも企業にも、世間と逆を行く、逆張りのチャレンジが求められています

(3)理想のキャリアを追い求めすぎてはいけない

昔の友達などに自分の会社の話をすると「なぜ、辞めないの?」と良く聞かれます。実は、危機の会社の中にはチャンスがたくさんあって面白いのですね。たくさんの人が会社を去っていくということは、それだけたくさんの仕事が空くということです。意思さえあれば、それらの仕事にチャレンジして仕事の幅を広げていくことができます。
私はそうやって会社に留まり仕事の幅を広げていきましたが、外に活路を見出した人もいます。企業の業績不振により日本国内では先端開発が出来なくなってしまったので、韓国や台湾、中国などの企業に転職し、半導体の先端開発を続ける道を選んだ人達です。海外の企業は高給ではありますが、競争が激しく成果を出せないとクビになってしまうので厳しいものです。でも、そうやって海を渡って成果を出しているエンジニアも多いのです。
電気業界に限らず、これからは企業の浮き沈みが非常に激しくなることは必至です。5年後、自分の会社や業界がどうなっているかなんて、誰にも分かりません。その中で、自分のキャリアを設計してその通りに進もうとするのでなく、状況に応じて機敏に動くことが良い結果を生むと考えます。

残念なことに、今は日本の半導体業界は右肩上がりとはいえません。しかし、こんな世の中でもエンジニアは必ず幸せで充実した人生をおくることができるはずです。思い悩むより目の前の仕事や状況に神経を集中させて、明るい未来を切り開いていきましょう。

蔵本 貴文

エンジニアライター。現役の半導体エンジニアとしてメーカーに勤務する傍ら、エンジニアならではの視点からキャリアや技術にまつわる記事を執筆している。著書に『学校では教えてくれない!これ1冊で高校数学のホントの使い方がわかる本』(秀和システム)がある。