【タカタ】転落の経緯とそこから見える自動車業界の課題

2017.06.28
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エアバッグの大量リコールに揺れるタカタが、民事再生法の適用を申請しました。東京商工リサーチによると、負債総額は自動車メーカーが立て替えているリコール関連費用を含めて約1兆7000億円に上る見通し。製造業では戦後最大の倒産となりました。

世界トップクラスのシェアを誇り、安全の代名詞だったはずの「TAKATA」は、なぜ転落してしまったのでしょうか。1億台を超える過去最大規模のリコールは、自動車業界に多くの教訓を投げかけています。

最初のリコールから8年半余り

「すべての関係者のみなさま、債権者のみなさまにご迷惑をおかけすることとなり、心より深くおわび申し上げます」

6月26日、東京地裁に民事再生法の適用を申請したタカタの高田重久会長兼社長は、記者会見で深々と頭を下げました。エアバッグの異常破裂で最初のリコールが行われた2008年11月から8年半余り。自動車業界全体を揺るがした欠陥エアバッグ問題は、世界トップクラスのシェアを誇る安全部品メーカーの倒産で一つの節目を迎えました。

タカタは1933年、織物工場として滋賀県彦根市で創業。60年に日本初となる2点式シートベルトの製造販売をスタートし、自動車部品に進出しました。87年にはエアバッグの量産を開始。世界シェアの2割を握る一大サプライヤーに成長しました。

タカタ製エアバッグの異常破裂は、エアバッグを膨らませるためのガス発生装置(インフレーター)に使っていた火薬原料「硝酸アンモニウム」が原因とされています。高温多湿の環境に長期間さらされると劣化し、インフレーターが破裂して金属片が飛び散るトラブルが、2004年ごろから見られるようになりました。

タカタ製エアバッグの異常破裂を受け、ホンダが最初のリコールに踏み切ったのは2008年11月。翌年には米国で初の死亡事故が発生しました。報道によると、異常破裂でこれまでに十数人が死亡。リコール対象は時間を追うごとに拡大し、全世界で1億2000万台規模に達しました。

後手に回った対応

タカタのリコールをめぐっては、異常破裂のトラブルが確認された当初からきちんとした対応をしていれば、ここまで問題は大きくならなったのではないかと言われます。欠陥をいち早く認め、対策を講じた改良品を早期に投入できていれば、リコール費用が1兆円を超えるまでに膨らむことはなかったのかもしれません。

「われわれ自身も、なぜこれが起きたんだということが非常に不可解だった。再現性が全然なく、いまだに苦慮している」。高田会長兼社長は6月26日の記者会見で、対応の遅れをこう釈明しました。

ただ、タカタが製造工程を監査する品質保証委員会を設置するなど、本格的な対策を公表したのは2014年12月になってから。米司法省の捜査では、タカタがインフレーターの試験データを偽って自動車メーカーに報告していたことも明らかになっています。米司法省は、今年1月に出した声明で「10年以上にわたって利益や納期を優先し、安全性に関する重要なテストデータを繰り返し改ざんした」とタカタの経営姿勢を断じました。

「われわれは品質第一主義。懸念はすべてクリアした上で採用を決めた」
「社内では『意地悪テスト』と言うが、条件を変えて何度も厳しくテストし、自信を持って出した製品だ」
「残念ながら開発時には予見不可能だった」

高田会長兼社長は記者会見で繰り返し強調しましたが、ユーザーの安全を守る技術への謙虚な姿勢は最後まで見られませんでした。品質への過信はなかったか。高シェアにおごりや甘えはなかったか。安全部品を手がけてきたメーカーだけに、対応が後手に回って被害拡大を招いた責任は重大です。

共通化で大量リコール 部品メーカー矢面に

タカタ問題が自動車業界に突き付けたもう一つの課題が、部品の共通化がもたらす負の側面です。

自動車業界では近年、自動車メーカーと部品メーカーの双方で、メーカーや車種の枠を超えて部品を共通化する取り組みが進んできました。部品の共通化は、自動車メーカーにとっては開発や生産の効率化、部品メーカーにとっては取引先の拡大につながる反面、ひとたび不具合が起これば影響は国境やメーカーを超えて広がります。

タカタ製エアバッグは、ホンダやトヨタ、日産、BMW、クライスラー、フォードなど国内外の10社以上の自動車メーカーで採用。多くのメーカーの多くの車種に搭載されていたことが、結果として過去に例を見ない大規模なリコール問題を生みました。 こうなると、もはや自動車メーカーが単独でリコールに対応するのは不可能。タカタは欠陥エアバッグ問題でリコールの矢面に立たされることになりました。

米政府や消費者の批判はタカタに集中し、米国の運輸当局や司法当局はタカタに巨額の制裁金や補償義務を課しました。部品メーカーであるタカタが厳しく責任を問われる一方で、完成車メーカーの姿はほとんど見えません。

部品共通化の流れは加速しており、部品メーカーとってタカタ問題は決して他人事ではありません。「前面に立つのは自動車メーカーで、部品メーカーは黒子」というこれまでの常識はもう通用しなくなってきています。タカタ問題では、自動車メーカーと部品メーカーの間で責任の所在が曖昧だったことも、対応のまずさにつながりました。欠陥や不具合が発覚した場合、責任をどう分担し、果たしていくのか。課題は重くのしかかります。

リコールはまだ道半ば

タカタは今後、米国の安全部品メーカー「キー・セイフティー・システムズ」の傘下で再建を目指すことになります。民事再生法の適用申請でタカタの経営問題には一応の区切りがついたものの、リコールはまだ道半ば。全世界で1億台以上に及ぶリコール対象のうち、回収されたのは日本で7割、米国では35%にとどまります。

自動車にはエアバッグと同じく火薬を使う発煙筒が搭載されていますが、使用期限は法律で4年と定められています。タカタ問題を受けて、エアバッグについても使用期限を定めて定期交換するルールが必要だとの意見が出始めました。リコール対応と並行して、再発防止に自動車業界を挙げて取り組まなければなりません。

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